「夜を捨てる」
 
 
 躊躇わずに窓の外へ光を放る
 たとえば机の上のランプ
 火のついた蝋燭
 君からもらったペンライト
 
 コードを引き裂かれて
 風を不意に受けて
 地面にたたきつけられて
 消えた光の位置と正反対に鎮座する星たちに
 僕は敬礼をする
 この世界の夜の象徴を捨て去ったときに
 失われた光は安心という名のついた道化なのだと
 きっと僕は知るだろう
 
 からっぽになった空間を侵略する闇は
 時に僕の恋人なのだと言えば
 
 君
 
 接吻をくれるのだろう
 かわいそうな人と笑って
 抱いていてあげようと
 嘯くのだろう
 
 生涯に一度も愛しているといわない
 その罠に似た優しさを
 知ってしまう疎ましさの中で
 唯一の色はシーツの白だけだった
 (もっとも愛などという戯言を求めているつもりかと
 せめてほしいぐらいだ)
 
 目撃者の月も
 もうすぐ消える
 
 心地よい自暴自棄の中で
 罪悪の味をした優しさだけを求めている
 堕落しきった朝を迎えるまで
 

1987/04/01


「夜を捨てる」
 
 
 せい
 
 ご褒美の時間だ
 窓を開け放して外をごらん
 弓張りの月が今日も精一杯虚勢を張って
 夜は己のものだと語るだろう
 
 せい
 
 部屋中の明かりは一つ残らず消し去らねばならない
 儀式はもう始まっている
 あらゆる夜の象徴は
 すなわち夜を否定するものだという方程式なのだから
 それらを覆すためにランプの灯りを閉ざして
 開放しよう
 世界を
 
 せい
 
 朝が来るまでに
 何度嘘をつけるか試してみるかい
 
 接吻の数よりは
 少ないだろうが
 
2003/04/01


「君と僕とワイン」
 
 
 饒舌な夜だった
 車道を逃げ惑う亡霊たちが今日も光を放ちながら
 悲鳴をあげる
 
 昼間にできる限り近づこうとして無理を重ねた外灯が
 ついにその命を閉ざしてしまった
 君はそれすらもありがちだと笑って
 それから美しい唇に呪いのような清浄な歌をのせて
 この世からあらゆる欲望が消える日に平和がくるのだと
 僕に告げる
 
 零を組み重ねた空は
 ついに色を失ったが変わりに穴だらけの衣装を手に入れて
 美とはすなわちと戯言を繰り返す
 
 君
 
 世界を平和にするにはなどと
 それこそとても貪欲なことだよと笑うと
 どんな顔をするのだろう
 
 明日の奇跡よりも
 一瞬の接吻のほうが大切だと告げようか
 金網に守られた平和の中で
 平和を語る愚かしさこそを愛しいと思えば
 君の肌の上に絶望の傷を残したくなる欲望にかられて
 それを打ち消すために
 ワインをあける
 
 さて
 
 血の色の絶望と希望を注ぎ込むグラスの中で
 揺れているのは
 君と僕と悪戯な幻想
 
 
2003/04/18

 
 
 
 
 
 



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