精神の劇



「朝の摂理」

  問われ問われ香る花の名を
  君知るや知らずや 劣情の花の名を
  欲情を得て朝露に濡れ輝けリ 輝けリ
  珠玉の呪いを問いを知りける
  躊躇うもなく 嗚呼 ただただに
  問われ問われ香る君が香水のよに
  吾知るも知らぬも 劣情の鎌首を擡げて
  愛欲を知るがため 朝露に濡れにけり
  濡れにけり


2002/07/19

「切望という名の今日」
 
  君でなくてはいけない空があることを
  僕でなくてはいけない海があることを
  君が受けるべき風が今吹いていることを
  僕が受けるべき波が今寄せていることを
  優しさの意味を問われ不自由だと答えていることを
  冷たさの意味を問われ自由だと言い捨てることを
  空が血まみれの君に占領されてしまうことを
  海はその空のために赤く染まるべきことを
  今日から僕は誰に語ろう
  何のために語り続けるだろう

  歌はもう失われてしまった
  誰も口ずさまなくなった
  古い話は耳をふさごう
  古い書物は火にくべよう
  新しい日々から得られるものは
  古い堕落だと知るだろう
  君でなくてはいけない夜があることを
  僕でなくてはいけない朝があることを
  存在という不確かな理由を述べるべき日には
  君は筆を折るだろう 僕の前で折るだろう
  それから僕は抱くだろう
  君をただ抱くだろう
  一つになるための儀式は分裂への儀式だろう
  今日にもう明日はない
  明日に今日はもうない
  
  歌はもう失われてしまった
  君ももう消えていくだろう
  残された僕だけが瓦礫の丘にいるだろう
  風もない夜だけきっと君を思うだろう
  それからまた何時の日にか
  歌を歌いだすだろう
  きっと歌い出すだろう

2002/04/01

「水葬 〜 悦楽の花 〜」
 
 
  肌の上に滑らせた謎解きのための指を
  文字の上に滴らせた毒を帯びた夢の欠片を
  誰が知るだろう 誰も知らないだろう
  壊れた鍵で開く 両足の美しい中心を
  
  馨れ馨る夢よ 沈黙を美徳とせよ
  悲鳴もうめきも耐えて得られるものを提示せよ
  でたらめに並ぶ湾曲と直線の幻と
  交尾するために君の読者となろう毒を持つ邪となろう
  
  破滅の果てに溜まる情念を固めたオブジェを
  白紙の常識の上に並べて愛撫するよ
  問われ問われ馨るものは絶望の甘い罠
  蜜の味をした先端を体に入れるために 今 歌ってよ
  
  それから花は咲くよ 紅い花弁を広げて
  湿り気のある洞穴の向こうの水を得て死に絶えようよ 今


2002/07/01


「先端=両端、自画像?否、幻想だよ、みんな」


  聞けよ
  
  始まりが終りだなんて
  愚かな正しさを行使しながら
  僕達は重なるんだよ
  新しいものを得るために
  古来からの儀式を続けて
  同じであろうと
  相違であろうとも
  何を重んじて祈ろうというのだい?
  結局僕たちの間に降りてきたのは
 
  神か
  悪魔か
 
  どちらでもさほどの差じゃないことを
  ここで証明してみようか
  優しさを表すために新しい終りを演出しながら
  君が用意する誠実のために
  僕が用意する悪意の準備を
  整然とならぶ美しい言葉の群れを飲み込めば
  魂が騒ぎ出して君をやがて犯すために
  起き上がってくるのを
  知ってるか
  知らないか

  まあ
  どっちだっていいことさ
  サイは振られた
  笑えよ 笑おうよ
  戸惑いなんて答えにならないだろうよ
  それから悪意に凌辱されて
  君は項垂れながら
 
  ゆっくりと
 
  鎮魂歌を
  捧げるんだろうさ
  聖者みたいな顔でね

2002/07/22

「熱望」

  青き夢は若き戸惑い
  あざとい罠 解れた魂を
  
  夜に問え
  久遠に見よ
 
  己が影が大地に吸われ
  追われて見る月の巨大を

  語るか渇望の末に
  朋よ 終りには歌を歌おうぞ

  終幕をひくのは
  他者であってよいはずがない ないのだ

 2002/08/01

 久しぶりに通常頁の更新です。
 水葬3に掲載されいている作品の更新も考えています。ぼんやりと考えながら、ああ、罪だよなあ詩作って。
 
 無邪気な詩がかけません。書きたくも無いけれど。
 日常の言葉に近づけるかどうかなど、考えたこともない。
 自分というものにどれだけ近づいてくるか、刃物とともに真剣勝負を繰り返す。消えていった友人たちよ、君は詩作を続けているだろうか。
 出来れば、幸せに暮らしてくれることを祈ろう。
 詩を書くことを必要としない幸せも、あるかと思う。
 少なくとも君たちは、僕と同じ魂に似た人種だった。
 自分を幸せにするために詩作の出来ない人種だった。
 孤独に追い込み、心の墓場で詩作を続けることは、死への道に近いだろうし、ばかばかしいほど自分を追い込む。
 
 笑えよ。
 
 僕はそうしている。
 限界まで脱落するように笑って、飲んで、騒いで、また明日を生きる。
 詩のために自堕落になるなら本望だ。
 
 詩以外欲しくない。
 
 自分の新しい命もいらない。
 断言してやる。
 
 今日はそんな悪意の日だ。


 h14/08/02   裕樹